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気動車に揺られて始めてゆく山口県長門市。藩政時代には、大浦の海女には強い漁業権が「特権」として与えられていた、と言う。誇り高き海女の写真を撮りに、いざ!nagato2013-02
冬の日本海の風が肌を刺す。沖縄育ちの息子は「痛い」と言いながらも、次から次へと押し寄せてくる白波が面白くてたまらない。ハングル語や中国語、様々な国の文字が書かれた漂着物を拾っては投げて、押し戻され、投げてを繰り返し、楽しんでいた。日韓海峡海岸漂着ゴミ一斉清掃期間を定め、各地域で海岸清掃を行っている所、この海岸では、2013年5〜7月の2ヶ月で3.3万トン(430人参加)の漂着ゴミを回収したという。海は繋がっているのだ……。nagato2013-03
海女達は、浜に打ち上げられたカジメ(海藻)を拾いに早朝から忙しそうだった。nagato2013-04
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カジメの天日干し作業を手伝うお父さん。2年前の海女サミットでお会いした海女のご夫婦。お母さんが海に潜り、お父さんが船を操り、二人三脚で海女漁をしている。nagato2013-07
「あれ? 僕ちゃんは連れて来なかったほ?」冬に大浦へ来た時には、一緒に浜を歩いた息子は、今回(夏の取材時)沖縄でお留守番。自分の孫のように、また来るのを楽しみにしてくれていた。「男はホント、様々な道を歩くよ〜。まっすぐ進む子は、おらん。そりゃ、ほんとね〜。船にでも乗っちゃったら(船乗りにでもなっていたら)、ずーっと、船に乗ってたかもしれんが……(陸の仕事をして今は遠くに住んでいる)。(私の息子は)普通高校いかせたが、一番大切なことは、手に職、持たせんといけん。」写真は、2013年2月「カジメ採り」休憩タイム。nagato2013-08
2013年7月。「アワビ、美味しい〜。トマトも味が濃い〜」海女さんの家の食卓は、毎回、新鮮な海山の幸が乗っている。nagato2013-09
「こんな、磯行きのいかん(海女漁へ行かない)年は、ないほ。」海は時化ている、その上、村の中で葬儀が行われるということで「沖止め」。海へ行けないのは、海女にとってはつらい日々。「休みの日は、何をしてるんですか?」「なにもしないほ。」「畑もやってるんですか?」「ここらは農業、せんかった。自分たちが食べる分だけほ。」彼女の畑へ連れて行ってもらう。庭の畑には、ウニの殻や海藻が撒かれていた。「そこにあるものが一番いいっちゃ。」nagato2013-10
庭先から、海辺の畑へ移動すると「キレイに、俺達が植えたものが……」夜行性の「うりぼう」が夜にやってきて畑を荒らしたのだろうと、お父さん。「せっかく植えたもんをとられたらね。あ〜、腹が立つに。磯行きは、はよ行けんかな。」とお母さんは怒りを抑えられない口調でその場を立ち去った。nagato2013-11
海に出たくてたまらない。言葉や行動の端々から、それが伝わってくる。この集落では、海女のことを「海女士」と呼ぶ。「女が強い」と言われる所以は、海女士としての誇りからきている様に感じられる。nagato2013-12
何日も何日も待って、ようやく磯行きが決まった。「沖へ行かんから、身体がなまっちょって、調子が悪い……。普通の海女士は(海へ行き始めて)3日目位が一番いいほ。(アワビが採れる)」カッコ悪い所を見られるのは、嫌なのだと、お父さんは教えてくれた。主導権は「女」。「後で迎えに来るほ〜!」と言って、朝、港に置き去りにされてしまった。nagato2013-13
海女の操業時間は午前中3時間、午後2時間。午後に迎えに来てくれる、ということで、私は別の浜から海に潜ってみることにした。地元の人に「海女」がいるであろう浜を教えてもらうと、そこには車やバイク、リアカーが置いてあった。ものが……。聞くと、「あぁ、ほったて小屋……(海女小屋など整備されている)伊勢志摩の(海女の環境整備より)50年、遅れちょる。あの下で(ウニや貝など)仕分けするっちゃよ。」nagato2013-14
海に潜ると、魚が群がっている、その先に、人影が……。nagato2013-15
足ひれを履かず、ウエットスーツも付けずに潜っているおばぁちゃん。魚に手を噛まれたりもしながら、ウニやサザエを中心に採っている。「わしらは、海女士じゃないから……」と彼女たちは言った。nagato2013-16
漁港に戻り、午後の商売(海女漁)に出かける多くの船とともに、大浦湾から出港。向津具半島を超え、日本海に出ると、波が出てくる。nagato2013-17
ホッカムリに大きく書かれた「大」の字。「私が一番大きい、とみせるんほ。」志摩半島では、セーマンドーマンを磯手ぬぐい等、海女が身に付けるものに書いて、魔物や海の亡霊などから守るのと同じ役割ということです。nagato2013-18
さぁ、いよいよ海へ! この格好は、海士町(石川県)に似ています。日本の海女発祥の地とされている鐘ヶ崎(福岡県)の海女家族が、昔、船で大海を渡り、寝泊りをしながら壱岐・対馬、朝鮮半島や本州沿岸で季節労働に従事していた。やがて各所に枝村をつくり定住していった。大浦もその枝村だと聞いた。海は隔てるのでなく、様々なものを繋いできた。nagato2013-19
ひらりと海へ。それを見守り、船を操るお父さん。ここでは、分銅(ふんどう)海女と呼ぶ。nagato2013-20
約20キロの分銅(オモリ)を持って、一気に海底まで降りる海女士。そのため、海底での滞在時間が長くなる。nagato2013-21
同じく「素潜り」で潜る私が、海女士が潜るスピードに追い付くには、通常より重いウエイトを付けなければならない。しかしオーバーウエイトで10メートルも潜ると、海底から浮上するのに、強いキック力が必要だ。長く息こらえした後のフィンキックはきつかった。海女士の持っていた分銅は、船の上に居る、お父さんが船のモーターで巻き上げるので、彼女は浮上はもちろん、楽に仕事ができる。nagato2013-22
「海女は自分の商売やから、(人に気を使わずに仕事ができて)気が楽や。」と言いながらも、「ひとりだけ、特別離れたら(危ないので)いかん。時間にあがらにゃ、いかんから・・・」周りを見渡すと、他の船が見えるところで操業している。海に潜る人を助けられるのは、海に潜るものだけ。孤独な海で仕事をする「海女士」同志は、ライバルであり、同志。nagato2013-23
海女士が潜るタイミングに合わせ、私は船底を蹴り、勢いをつけて垂直に潜る。nagato2013-24
オモリを付けない身体は、海底では飛ぶようにいられる。一方私は、のそのそ這うように泳いでいた。nagato2013-25
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お母さんが、疲れないようにと、工夫して付けてある竿。船はゆっくり進んでいるし海流があるし、捕まっていないと(船や海女士から)すぐ引き離されてしまう。nagato2013-27
ポンッ! と弾けるように海面に飛び出す海女士。nagato2013-28
竿につかまりながら、呼吸を整える。nagato2013-29
「みな(他の海女士もしばらく海に出ていないから)、具合が悪かったからじゃよ。身体がついていかん。身体が重たくて、足が棒のようになる。」ウエットスーツをお父さんに脱がしてもらう。nagato2013-30
船の上で、アワビなどを種類別、大きさ別に仕分ける。nagato2013-31
仕事の後(肉体労働、海女漁)はこれが最高! スイカの汁が身体に浸透して、ほのかな甘味が、優しく体を包みます。nagato2013-32
「夫婦が一心同体なんて、ありゃ、うそや!男と女は一生戦いじゃ。」そんなこと言いながらも、とっても仲が良いご夫婦。「強い女」と「優しい男」そんな陰陽調和のバランス感を見せていただきました。ありがとうございました!nagato2013-33
美しい海とは、おかずが採れる健康的な海。nagato2013-34
大浦湾で遊ぶ子どもたち。nagato2013-35
他所にも海女がいるという情報をいただき、同じ向津具半島の別の集落に行くことになった。広大な棚田が広がる美しい景観。「みんな、田と畑はやっちょるんです。体が動く限り作るんです。ウニの時期は、ウニ採って、冬場にちょろっと、アワビ、サザエとって……」nagato2013-36
漁港から出た、海女二人を乗せたせ小さな船は、15分ほど走ったところで彼女たちを海におろしてくれた。nagato2013-37
浜に近い浅瀬の海では、何かに触れてしまうと、海中はすぐに濁ってしまう。nagato2013-38
こんな浅瀬に、アワビがっ!!!nagato2013-39
「昔は……昭和50年までは、ウエットスーツはつけず、磯着を来てました。昔は、ウニを、食べる量しか、採ってませんでした。ウニ採りいうても、抱っこさん(ウエットスーツ)着て、潜ることはなく、手探りで採ってました。今は発展して、女がアワビとかサザエとか、採るけれど……。時代が時代だから、しょうがない。磯(いそ)行ったり、陸(おか)さぐったり、そんなもんです。」nagato2013-40
2時間ほど潜ると、ガゼ(ウニ)がだいぶ集まりました。nagato2013-41
「ほいっ!」私が採ったサザエ2個を手渡すと、1つをもう一人の海女に渡しました。「そろそろおやつの時間けんね。」サザエを投げたように、パック入りゼリーもホイッ!nagato2013-42
海で食べるゼリー。美味しかった。nagato2013-43
時間が来ると、船が迎えに来ました。農地面積の広い土地で、海と畑仕事をする海女さん達の海(海女漁)は、とてものどかでゆったりした気持ちになりました。浜で遊ぶ孫達に手を振る海女さん。nagato2013-44
海女士の採ったアワビ。海女士と海女さん。(こんなに近い場所であっても)所違えば、海女も違う。行ってみないとわからないことだらけです。nagato2013-45
ウエイトの入ったあまりに重すぎるトランクケースを持ってくださった車掌さん。ありがとうございました!写真の右下にある[i]マークをクリックすると説明を読むことができます。